あまえんぼダーリン

 真ちゃんと恋人になって七年が経つ。一緒に暮らすようになってからは四年だ。
 ときどきケンカもするけど基本的には至って平和、順風満帆な関係を築いている。倦怠期だマンネリだとかいうものは、さいわいなことにオレたちには縁のないシロモノっぽい。そもそも真ちゃんと過ごす日々にマンネリを求めるほうが無理な話だし。
 ところで三年もつきあってると、ちらほらオレらの関係を周囲に明かす、なんてことも起こるようになった。親兄弟にはまだだけど、キセキの連中とか、つきあいの長い友だちはオレらのことを知ってる。
 男同士という関係に、引いたり気持ち悪がったりせずにいてくれるのは本当にありがたいことで、あの真ちゃんだって「物好きなヤツらなのだよ」って感謝のことばを口にしているくらいだ。
 男同士だからと彼らに否定的なことを言われたことはない。でも、オレはときどきあきれられる。「緑間がいいとか、おまえホント変わってんなあ」って。
 オレにしてみれば逆におまえらなんで真ちゃんを選ばねえのって気持ちなんだけど、ホントにそうなったらもちろん困るし、真ちゃんのいいところなんかオレだけが知ってればいいとも思っている。だから、そういう話題になったときは笑って受け流すことにしている。
 今もそんな感じ。
「ほんと、あの緑間と一緒に暮らすとか、マジねーわ」
「ガミガミ言われるの勘弁だし〜」
「確かに小言は多そうです」
「緑間は完璧主義だからね」
「あと緑間っち、愛情表現とか全然しなさそうっスよね。そういうの嫌になったりしないんスか?」
「でもミドリンだってちょっとくらいはそういうの言うよね? 誕生日とかクリスマスくらいは」
 いつものことながら、ひどい言われようだ。中学時代の真ちゃんはこいつらにいったいどんなふうに接していたんだろう。一応毎回「そんなことねえよ、おまえらが思ってるようなことは全然ないぜ」って返すけど、全然信用してもらえない。むしろ「フォローまでしちゃって高尾くん優しい」という空気になるからもはや笑うしかない。何ひとつウソをついていないのに、ここまで本気にされないことってそうそうないんじゃねえの。
 最終的には「がんばってね高尾くん」「いつでも愚痴を聞きますからね」という生暖かい声援をもらって会合は解散になる。散り散りになっていくみんなの背中を眺めながら、真ちゃんごめん、と心の中でつぶやく。また真ちゃんを口うるさくて神経質で愛情表現のまったくない、つきあいにくい男にしてしまった。
 でもホントのことを教えてやるよりは、真ちゃんの名誉を保ててるって思うんだよね。オレとしては。
 チャイムを押すのとほとんど同時なんじゃないかって勢いで、玄関のドアが開く。
「た、ただいま〜」
「……おかえり」
 論文だかレポートの執筆真っ最中であるはずの真ちゃんは、ひどくけわしい顔をしている。だけどこれは別に提出日が迫っているとか、行き詰まってるとか、そういう理由によるものではない。
「遅い」
 ドアを閉め終わる前に抱きしめられる。「おい、外! 見える!」とジタバタしながら抗議すると舌打ちが聞こえてドアが閉まった。いや舌打ちするようなことじゃねえだろ。ドア大事だろ。
「ごめん、でも早いほうだろ?」
「……遅い」
 すり、と肩のあたりに真ちゃんの頭が押しつけられる。オレに犬を飼った経験はないんだけど、ときどき大型犬の飼い主みたいな気持ちになることはある。今とか。
 真ちゃんは休みの日かつ自分が一日家にいるときにオレが出かけると、たいそう機嫌が悪くなる。十中八九さみしいからなんだろうけど、正確な理由は教えてくれないからわからない。ま、さみしいんだろうけど。だって他に理由ねーだろ。
「だいたい誰と会っていたのか聞いていないのだよ」
「え、っと、大学んときのダチ!」
 言えない。キセキの皆さんに定期的に「高尾くんをねぎらう会」を開かれているなんて。
 ごまかすために真ちゃんの背中をぽんぽんと叩く。ともかく、オレが帰宅してまずやるべき仕事はいい歳して拗ねてる大男のご機嫌を徹底的にとること、なのである。これを怠ると「拗ねてる」から「怒ってる」になったのち「いじけてる」に進化してしまう。そうなると機嫌を直してもらうとかそういう次元の話ではなくなって、とても困ったことになる。それは避けたい。
「もうこれで出かける用事ねぇから。月曜までずっと一緒だかんな?」
 甘えるようにそう言うと、ぎりぎりとオレの体をしめつけていた力がゆるんだ。
「……本当だな」
「ほんとほんと」
 いっぱいいちゃいちゃしようぜ。
 とどめのつもりで放ったひとことの効果は絶大だったようで、フンという返事とともに拘束が解かれる。ミッションは無事コンプリートできたようだ。

 同棲を始めてわかったこと、ひとつめ。真ちゃんはびっくりするくらい甘えんぼうだ。
 まず朝はちゅーしないと起きない。きっかり五時ちょうどに起床してオレに「目覚まし時計かよ!」って笑われていた真ちゃんは過去の存在だ。今は揺すっても叩いても怒っても笑っても起きやしない。
 いや、たぶんホントは起きてるんだろうけど、頑としてオレがちゅーするまで起きようとしないのだ。なんなんだ、その情熱。おもしろいからいいけど。
 ちなみに舌を入れるのは怒られる。そういうのは歯を磨いてからなのだよ、と言って洗面所に向かう後ろ姿が颯爽としすぎていておもしろいから誰かに一度見せてみたい。おかげでオレは各メーカーの歯磨き粉の味についてくわしくなってしまった。
 あと金曜の夜に真ちゃんの帰りが遅くなるときは、起きて待ってないといけない。金曜限定、というあたりが真ちゃんより一足先に社会人になったオレに対する配慮だ。たぶん。対外的には神経質なまでにきちんとしたふるまいを続行させている(らしい)真ちゃんは徹底したスケジュール管理を怠らないから、徹夜で研究室に泊まり込むとか朝まで飲み会につきあわされるとか、そういうことはめったにない。けど終電で帰ってくることがないわけではなくて、そういうときは盛大に労わってやることになっている。
 よしよし、遅くまでがんばってえらい。そう言われて頭を撫でられているときの真ちゃんはとてもおとなしい。表情は変わらないけどとても満足していることはわかる。とてもかわいい。
「おはよう」のちゅーもだけど、「行ってきます」と「おかえりなさい(もしくはただいま)」と「おやすみなさい」のちゅーも欠かしてはならない。忘れるとこれまた拗ねられる。あと風呂はできるだけ一緒。もちろん寝るのも一緒で、オレを腕枕して寝ないと気がすまない点に関してはちょっと困っている(真ちゃんの腕は枕にしては硬すぎる)。つまりは家にいるあいだはできるだけべったりしていたいらしい真ちゃんは、きっと誰が見ても完璧な甘えんぼうだ。

 同棲を始めてわかったこと、ふたつめ。真ちゃんは意外とだらしない。
 レポートや論文を書くのに必要な本とか参考書はリビングのテーブルに積んだまま片づけないし、脱いだ服とか靴下とかもぽいぽいそのへんに落としてそのまんまだ。文句を言うとかならず「おまえが片づけるのだからいいだろう」と返ってくる。まあ本が散らかってても死ぬわけじゃねえし、オレも靴下とかは床に置き去りにしがちなタイプだから人のことはあんまり言えない。それに本を真ちゃんの部屋に持っていったり、洗濯のときに真ちゃんの物を拾い集めるのくらい、たいしたことじゃないからいいんだけど。
 あとオレがいないと非常に食生活が雑になる。たとえばオレが真ちゃんをおいて昼間出かけたとする。帰ってきてオレが見るのはカップ麺の容器だ。しかも汁とか残ってて箸もつっこんだまんまのやつ。せめて洗って捨てろよとは思うけど、それよりも拗ねてる真ちゃんの相手に忙しいのでいつも追及できずじまいになっている。まあ、真ちゃん料理できねえししょうがねえかもなぁ、と思っているのもいけないのかもしれない。
 そして料理はもちろん、それ以外の家事もあんまりしない。(そのかわり、オレが忙しくてあんまり掃除できなくても口を出さない)。同棲を始めてからずっとそんな感じできちゃったから、たぶん真ちゃんはウチのどこに何があるかわかってないと思う。ああ、でも、いい気分で昼寝してるときに起こされて「トイレットペーパーがないのだよ」とか言うのだけはちょっとやめてほしい、かな? トイレの棚になければウチにはもうないってことなんだって何回か説明してるはずなんだけど。
 ともかく、そんな感じで家にいるときの真ちゃんは甘えんぼうで駄々っ子だ。「生真面目で神経質で愛情表現に乏しい」というレッテルを貼られている真ちゃんが、べたべたにくっつきたがる散らかし魔で生活のことはオレに任せきりだって知ったら、キセキの連中は卒倒するにちがいない。そう思うと、かなり楽しい。
 だけどオレだって、どうしてこうなった、と思うことがないわけではない。
 けれどオレは真ちゃんが真ちゃんだから好きなわけであって、つまりはどんな真ちゃんだって愛さずにはいられないわけで、甘えてこようがだらしなかろうがさしたる問題ではないのだ。そりゃ困ってることもあるけど、オレにひっついてくうくう寝てる顔とか、目を閉じてじっと頭を撫でられてる姿とかを見てると何もかもチャラになる。つまりはとっても順風満帆なのだ。オールオッケーなのだ。日々はバラ色、あー早く真ちゃんに会いたい。
「高尾くん、ちょっと」
「ッはい!?
 いけない、つい真ちゃんのことを考えてしまっていた。今は仕事中で、ここは会社である。甘えんぼうな彼氏さまをなんとか意識の外に追い出して、課長の席に向かう。入社して一年のオレはまだまだ下っ端で、課長に呼ばれることなんてめったにない。まさか、なんかしでかしたか、オレ。
「な、なんでしょう……?」
「来週、参加してもらいたい研修があるんだが」
「あ、はい。承知しました。新人研修ですか?」
「まぁ、そんなようなものだ。本社で四日間行うから、交通費や宿泊の申請を今日中にすませておくように。やりかたがわからなかったら先輩に訊きなさい」
「……え、あ、はい?」
 オレが勤める会社の本社は、大阪にある。

 真ちゃんはグッとおでこに深い深いシワを作ったものの、オレの三泊四日の出張に関して文句を言うことはなかった。いくら甘えんぼうでも真ちゃんはとてもプライドが高い。これが友だちと旅行に行くとかなら話は別だけど、仕事のことでさみしいとか行くなとかオレと仕事どっちが大事なんだとかそういうことは口が裂けたって言わないのだ。
「えっと、メシはちゃんと食えよ! 近所にあるファミレスと弁当屋の地図書いといたから! いくらレポートがやばくてもカップ麺三昧だけはすんなよ? あと、えーと、洗濯とかは帰ったらまとめてするからちょっと辛抱しててな。それとあとなんだろ、えっと、ゴミの日はカレンダーに」
「言われなくともわかっているのだよ。いいからさっさと行け」
 真ちゃんは渋い顔でしっしっと手を振るけど、それでオレが安心できるはずもない。だって、休みの日に何時間か家を空けるだけで拗ねる真ちゃんだぜ? オレが朝起こしてやんないと起きない真ちゃんだし、風呂上がりにはパジャマやタオルを用意しといてやんないといけない真ちゃんだし、コーヒーだってひとりで淹れらんない真ちゃんなのだ。不安にならないほうがどうかしてる。
「毎晩電話するから!」
「当然だ」
 あ、そこはあたりまえなのね。ちょっと笑えた。

 研修は新人研修というより幹部候補のための研修ってやつだった。オレって超期待されてる。幹部候補向けなだけあって内容はかなりおもしろく、まったく飽きないというかつまんないと思うことは一瞬たりともなかった。とても有意義な時間をもらえたことに感謝の念すら覚える。
 もちろん、それと真ちゃんが心配なのはまったく別の問題で。一日を終えてホテルにもどってきたオレがまっさきにするのはスーツを脱ぐことでもお茶を飲むことでもベッドに寝転がることでもなく、真ちゃんに電話することだ。
「大丈夫か真ちゃん! 生きてる?」
『……何を言っているのか意味がわからんのだよ』
「おしるこ温めようとしてレンジ爆発させたり、食ったもんそのまんまにして虫沸いたりしてねえ!?」
『おまえはオレをなんだと思っている』
 電話越しの真ちゃんの声はいつもと変わらない。でもそれで安心するのは早計というものだ。真ちゃんがオレに心配かけないようにしてるだけかもしんない。あと部屋が凄まじい惨状になってるかもしんない。ああ、頼むから、自炊にチャレンジして台所爆発とかさせないでくれよ。
「ソッコー帰るから!」
 電話越しにフンという返事が聞こえた。ああ、早く、肉声でそれを聞きたい。

 長い三泊四日を終えてオレは迅速に帰社して迅速に退社した。出張のあいだに仕事が溜まっているのはわかってる。でもそれを片づけるのは明日でいい。真ちゃんと家の無事を確認しねえと仕事なんて手につかない。上司も「ネコが待ってんだろ? 今日は早く帰れ」って許可をくれた。会社ではオレはペットのネコを溺愛していることになっている。
 早く早く早く早く。じりじりした気持ちで電車がオレたちが住む駅に着くのを待つ。もはや懐かしく感じられるホームに降り立ち、全速力で改札をめざす。あーもう、キャリーケースってなんでこんな重てーの。
「高尾」
 改札を出たところで呼び止められる。驚いてふりかえると、スーパーの袋を両手に下げた真ちゃんがいた。
「真ちゃん!」
 駆け寄って見上げると、メガネの奥の緑の瞳がやわらかく瞬いた。ここが外でなければ抱きつきたい。思わずちょっとうっとりしていたものの、大事なことを思い出す。
「無事!?
「……だからおまえのそれはなんなのだよ」
 顔色、悪くない。髪の毛、いつもどおり。服もきちんとしててシワシワでもくしゃくしゃでもない。体形も、変わってない。よかった。
「真ちゃん、ちゃんとメシ食って風呂にも入ってたんだな!」
 ずる、と真ちゃんの体が傾いたのに合わせてスーパーの袋ががさりと鳴って中身が見えた。食材が入っている。それに。真ちゃんの右手が持っている物を見てオレは驚愕する。なんと真ちゃんはトイレットペーパーを持っていた。
「え」
「……帰るぞ」
 言い捨てて真ちゃんはすたすたと歩いていく。あわてて追いかけるけど頭の中にはまだ驚きがぐるぐると渦を巻いている。だって、真ちゃんが、トイレットペーパーを買った? つまり家の在庫を把握している……だって?
 帰る途中真ちゃんはひとことも発さず、オレも何も言わなかった。無言でマンションにたどり着き、なつかしの我が家に入る。
「え、えぇ〜…」
 おそるおそる足を踏み入れたリビングは、簡潔に表現するとめちゃくちゃ綺麗に片づいていた。余計な物が何も置かれていないし、ゴミひとつ落ちてないフローリングもぴかぴか光を放っている。オレがやらなきゃと思いつつも放置していたベランダの窓拭きも済ませてあるようで、ずっと放置されていた水滴の跡がなくなっていた。窓の向こうでは、シャツやタオルやパンツが風を受けてはためいている。「ああ」と短くつぶやいて真ちゃんは窓を開けて洗濯物を取り込み始めた。生まれて初めて見る光景だ。
 思考がまとまらないまま台所に取り残されたスーパーの袋の存在を思い出し、中身を機械的に冷蔵庫にしまっていく。冷蔵庫の中も綺麗になっていて、オレがそっと見なかったことにしていた賞味期限切れの納豆のパックなんかがなくなっている。買ってきた食材も卵や牛乳や豚肉なんかで、奇抜な物は何もない。
 ふと思いついて、そうっとゴミ箱をのぞきこむ。カップ麺の容器、コンビニ弁当のトレイ、弁当屋のものらしき透明のパックがいくつか、きちんと洗った状態で入っている。その隣のゴミ箱にはおしるこの缶が大量に。食材のストックやあまり使わない調理器具をしまっている棚を開けると、常に大量に備蓄しているおしるこの缶がかなり減っていた。
「マジかよ」
 思わず声が漏れる。にわかには信じがたい。真ちゃんが洗濯をして、家の備品の状況を確認したうえで買い物をし、家の中を綺麗に整えている、なんて。特におしるこの缶をしまってる場所なんて絶対知らないと思ってた。探し回るくらいなら買いに行ったほうが効率的なのだよって箱買いしてるかもって予想してたのに。
「……アホ面をさらして、どうしたのだよ」
 洗濯物を抱えた真ちゃんがいぶかしげにこっちを見ている。やがて固まって動けないオレを眺めるのに飽きたのか、スッと座って洗濯物をたたみはじめる。マジか。真ちゃん洗濯物たためるのか。オレと自分の靴下区別できんのか。
「前々から思っていたのだが」
 真ちゃんがはあ、と大きなため息をつく。
「おまえはオレを何もできない子どもだとでも思っているのか。心外なのだよ」「いや、だって、ふだん、おまえ」
「おまえが人事を尽くしていることに口や手を出す必要はないだろう」
「え、えー……?」
 いや全然家事は分担してくれていいんですけど。呆然としつづけているオレをよそに真ちゃんはてきぱき洗濯物をたたんで寝室に消える。たぶんクローゼットにしまいに行ったのだろう。どこにどんな衣類をしまってるのか知ってるのか、とこりずに新たな驚きを覚えてしまう。
「いつまで呆けている」
「……いや、うん、えっと、ごめん」
 そうだった。真ちゃんは何にでも人事を尽くす男だった。その気になれば、家事くらいわけないのだ。だけど、ここまで完璧にこなされてしまうと、なんだか妙な気分だ。拍子抜けというか、がっかりしたというか、なんだろこれ。オレのやるべき仕事がなくなってしまったような、そんな感じだ。オレはそんなに家事に生きがいを感じていたのか、ということにさらに驚いてしまって混乱が収まらない。
「ところで」
 むすりと真ちゃんがつぶやく。
「何か忘れていないか」
 両腕を広げて謎のポーズをしている真ちゃんを見つめることしばし。無表情だった頬がしだいに赤くなっていって、そこでようやく気がついた。まだ「ただいま」のちゅーをしていない。
「……真ちゃん、ただいま」
 ぽすんと腕の中に飛び込むとすぐにぎゅうっと強く抱きしめられる。痛いくらいの加減でされる抱擁は、さみしかったときの真ちゃんのくせだ。
「おかえり」
 伸びあがってキスをする。三日ぶりの真ちゃんの唇は、あいかわらずあたたかくて優しい。
「……一週間も家を空けた埋め合わせはしてもらうぞ」
「ぶっは、一週間じゃねえだろ、三日だろ」
 すりすりと肩を擦る髪の動きもひさしぶりに味わう。ぎゅうぎゅうとしめあげるように抱きつかれてこんなに安心するなんて思わなかった。そうだ、真ちゃんを置いて出かけたオレが行うべき、最大の仕事がまだだった。
「オレもさみしかったよ」
「別に、オレはさみしいなどとは言っていない」
「言ってないだけで思ってただろ?」
 むうと言葉をつまらせた真ちゃんにもうひとつキスを贈る。三日も放っておかれた彼氏さまはきっとたいそう拗ねているから、ご機嫌をとるのはさぞ大変にちがいない。早く夕飯を作って食べて、風呂に入って、ゆっくり抱きあわなければ。

 なあ、こればっかりはオレだけの仕事にしといてくれよ、真ちゃん。

 

 

 


家事をしない緑間真太郎、10年後に読むと
なんかちょっとアレだな……