──緑間真太郎と高尾和成の恋愛事情は、案外あっさりしている。
◆高尾和成による談話
は? オレと真ちゃんのオツキアイについて聞きたい? うひゃひゃ何それ、物好きもいいとこすぎねぇ? 聞いてどうすんだよ、つーか言いたくねぇわ。ハズいじゃん、そんなん。
……真ちゃんのかわいいとこが知りたい? そんなんオレが知ってればいいだろ、おまえが知ってどうすんの。
え、赤司の命令? お礼はこのトレーディングカード? うわ……激レアじゃん。おまえこれいくらするか知ってる? ネットでやべー値段ついてるやつなんだけど?
……あーもう、しょうがねえな、ちょっとだけだかんな! 誰にも話すなよ?
えー、っと。それで何話せばいいんだよ。
そうだなー、つきあって……半年くらい、かな。っつっても、オレら秀徳のスタメン様だからな、つきあう前とたいして変わってねーよ、残念ながら。毎日部活あるし、オフもほとんどねーし。まぁクラスが同じで朝も帰りも一緒だから一日一緒にいるっちゃいるけど、そんなん前からそうだったし。
デートもそういやしたことねーなー。まぁ真ちゃんも「デートするのだよ!」とか言うキャラでもねぇし? そもそもデートとか知ってんのかね? やべ、知らなかったらどうしよ。チョーウケる。
現状に不満? ないない。あっさりしたもんだって。なぁこれ聞いててマジで楽しいわけ?
え、キスはしたのかって? ……おまえなぁ。
まーオトシゴロですから? しましたよ、ちょっと前に。あ、言っとくけどそのときの話はぜってーしねーからな!
手をつないだり? ……まーするけど? たまーにな! やっぱ人前ではそーゆーことできねーし、オレも真ちゃんもデレデレベタベタすんの得意ってわけでもねーからな。
あーでも、ああ見えて真ちゃん甘えんぼうさんだかんな〜。うん、真ちゃんからなんかそういう雰囲気出してくるときはあるわ。なんつうの、手つなぎたいとか、もちょっと一緒にいたいとかさ。口に出すわけじゃないけど、表情っつーか空気で伝わってくんね。
そういやこの前、部活終わったときの真ちゃんヤバかった。なんかそういう気分だったらしくてさ、急に抱きついてくんの。うひゃひゃ、彼氏を甘えさせてあげんのも彼氏のツトメだろ? だから黙ってぎゅっとされててあげたんだよね。まわりに人もいなかったし。
けどなんかよっぽどエース様は甘えたい気分だったみてーでさ、なかなか離してくんねーの。ひゃひゃひゃ、ウケるだろ? あの真ちゃんがぎゅ〜って抱きついてくるんだぜ? そんでオレもまーいいかなって思ってぎゅっとやりかえしたんだよね。そしたら真ちゃんチョーびっくりしててさぁ。あれ、そういやオレって自分からこういうのしたことなかったっけ? ってそんとき気づいてさ。ふざけてノリで、とかは全然あるけど、こういうマジな空気ではなかったなーって。
それってちょっとかわいそうかなって、反省したんだよね。そんとき。だから今はなるべくオレからもぎゅってすることにしてる。そのせいかどうかは知らねーけど、真ちゃんからもそういうことしてくる回数増えたし、うれしそうな真ちゃんがまたかわいいんだよなー。いやあ、オレってイイ彼氏だよなー!
…………。
ってなわけで! こんなもんでいいだろ? もう話さねーからな! あとマジで誰にも話すなよ!
◆緑間真太郎による談話
……オレと高尾の交際について知りたい、だと? 聞いてどうするのだよ、おまえには関係ないだろう。
何? 赤司が知りたがっている? 謝礼はこの……これはジンギスカン塩キャラメル味八橋のキーホルダー……! 探していた逸品なのだよ。
ならば仕方がない、手短に済ませろ。
交際を始めてどれくらいか? 今日で六ヶ月と十七日目なのだよ。変わったことといえば、そうだな。あまり毎日にこれといった変化はない。オレも高尾もバスケに人事を尽くさねばならん。恋愛にうつつを抜かすのはあまり好ましいとは言えないだろう。味気ないと言われればそうかもしれんが、こればかりは仕方のないことなのだよ。
キスはしたか、だと? ああ、交際しているのだから当然だろう。昨日もしたのだよ。
手をつないだり、抱きしめたり? するに決まっているだろう。そんなことをいちいち確認して何がしたい。
もっと具体的に? まったく、注文が多いのだよ。
いつどこで……と言われても、いつするか決めているわけではないからな。帰宅時や、部室で他に人がいないときとか、そんなものだ。
ああ、だが高尾はつまらんことはいくらでも話してうるさいくせに、肝心なことは口にしない。だからいつ抱きしめたりしていいのか判断に迷うことはあった。オレはそういうタイミングを計るのがあまり得意ではないようだから、向こうの意向を聞くのも必要だと思ったこともあったのだが……どれだけ言ってもあいつはのらりくらりと逃げる。まったく、困ったものだ。
それでどうしたか、だと?
……この前、次の試合のスタメンを決める試験があったのだが、ガラにもなく高尾が緊張していてな。普段あれだけ人事を尽くしているのに、いまだにスタメンになれるかどうかで緊張するなど、まったくあいつもまだまだなのだよ。
ともかく、すこし落ち着かせる必要があると判断して抱きしめたのだが、そのとき高尾がオレの背中に手を回してきたのだよ。今までそんなことがなかったから驚いたのだが、高尾の手がふるえていたし、力が存外強かったことから確信した。高尾はオレに甘えたがっていたのだよ。あれはもっと抱きしめてほしいという意思表示だ。あれだけべらべらとよく回る口をもっているのに、本当に厄介な男だ。抱きしめてほしいときがあるのならそう言えばいいのだよ。そうすればいくらでもしてやる。
それからオレは考えて結論を出した。どうせ高尾が意思表示をきちんとしないのなら、オレがしたいときにすればいい、とな。思えば抱きしめてもキスをしても高尾が嫌と言ったことは一度もなかったのだから、オレとしたことがタイミングを計るなどと、まったく無駄なことを考えていたのだよ。
最近は高尾から抱きついてくることも増えた。オレがそうする回数を増やしたからかもしれんが……あいつもようやく恋人としてのふるまいを身につけたようだな。結構なことなのだよ。
これでいいのか? む、おまえなんだか顔色が悪いのだよ。どうかしたのか。……そうか。ならばオレは帰る。赤司によろしく伝えておいてくれ。
──緑間真太郎と高尾和成の恋愛事情は、案外あっさりしている。
ただしそれは当事者の発言であり、それを信じている者は誰ひとりとして、いない。
これがわたしの人生初の緑高です…
10年ぶりくらいに小説(もどき)書いたので、ぎこちなさがすごい。