基礎練を終え、いつものように緑間がシュート練を始める。その様を高尾はじっと見つめていた。
赤、青、黄色、紫、オレンジ。緑間がボールを放つたびに、さまざまな色の欠片がそこらじゅうに乱舞する。ちかちかと目に痛いくらいの光は、どうやら高尾にしか見えないものらしい。
「高尾、どうした? 具合でも悪いのか」
「すんません、ちょっと目が痛いっつーかまぶしいっつーか」
「大丈夫か? 今日はお前、もう上がれ」
「あー……見学、でもいいですか? 体調はホント大丈夫なんで」
大坪に見学の許可をとり、体育館の隅に座る。そのやりとりには目もくれずに緑間は黙々とシュートを撃ち続けている。
高尾には、あれが何かわかっている。あの光は、緑間の心だ。ボールが左手から離れるたびに舞い散る光は色とりどりで、どの色がどんな気持ちを現しているかまではわからないけれど、うれしいとか悔しいとか負けたくないとか、ありとあらゆる感情がつまっているのだろう。
楽しい楽しくないでバスケをやっているわけではない――いつかそんな風に緑間が言ったのは、嘘だ。だって、本当に楽しくなかったら、あんなにきれいなものを、あんな強い輝きで放てるわけがない。
ふふ、と口元に笑みが浮かぶ。あんまり緑間のことが好きで、あのシュートが好きで、ずっとずっと見てたから、きっと高尾にだけあの光が見えるようになったのだろう。きらきら輝いてゆらめく緑間の心はとても美しくて、ずっとずっと眺めていたくなる。
ふと緑間が高尾の視線に気がついた。笑いながら手を振ってやると、桜のような薄紅色の光がぱあっと広がって消えた。
(……?)
花火のように散って消えたその光の名を、高尾はまだ知らない。
2020.9.22