※緑高も含まれます。
黒子テツヤは悩んでいた。
彼には思い人がいる。いつも溌剌として元気がよく、バスケを何よりも愛し、仲間を大切に思う熱い心をもつ優しい青年だ。
紆余曲折したあげく、性別などの諸処の問題を乗り越えて思いを通じ合わせ、なんとか恋人になれた。物語ならここでめでたしめでたしだ。けれど現実はハッピーエンドのあとも続いていくものだから、新たに問題がもちあがることだって当たり前のようにある。そう知ったのは、情けないことについ最近だ。
はあと息を吐き、窓ガラスに映る自分を見つめる。夕暮れのマジバは黒子と同じように学校帰りの生徒でとてもにぎやかだ。
ハンバーガーやポテトが乗ったトレイを持ってわいわいと通り過ぎていく人たちは、誰ひとりとして黒子に目を向けない。それどころか、黒子がいるにも関わらず空席だと勘違いして座ろうとしてくる者までいる。
日常茶飯事なので気にしてはいない。誰からも気づかれない影の薄さと、何を考えているかわからないと言われる表情のない顔は、生まれもった性質に加えて自ら磨きをかけたものだ。
大好きなバスケのため、自分がチームに必要とされる存在になるために必要だったらからそうした。後悔したことはない。だけどそれが今、黒子を悩ませている。
――かわいくない。
つい先日、恋人に言われたことばだ。
部活を終えた帰り道、黒子は彼の様子がおかしいことに気がついた。視線をうろうろとさまよわせて、宙をにらんで、ときおり黒子をちらりと見下ろして。その視線が自分の顔ではなく手に向かっていたから、彼の真意を悟るのはそう難しいことではなかった。だからそれを叶えてあげようと思ってその手をとったのだ。
黒子の行動に、恋人はおおげさなくらい驚いた。真っ赤な顔で手をふりほどき、勢いよくあとずさる。
「……どうしたんです、火神君」
「どうしたって……! お前、いきなり、手」
「火神くんが手をつなぎたそうにしていたので」
「バッ、な、んで」
「なんでと言われましても……ボクの手をずっと見ていましたし、緊張しているようでしたし、手が不自然な動きをしていましたし」
気づいたことをつらつらと述べると、火神は大きく息を吐きだした。すこしだけ呆れたような色が混じった息だった。
「ほんっと、お前よく見てんだな」
「……まぁ、もう癖のようなもので。それで、火神君」
「なんだよ」
「手、いいんですか」
ひらりと手を振ってみせると、火神は渋い顔をした。そしてまだ赤い頬をかくすように顔をそむけて、こう言ったのだ。
「お前……ほんとかわいくねーよな」
火神の「かわいくない」は黒子の胸にトゲのように刺さった。ちくちくと、いつまでたってもかすかに痛む。傷ついているのだ、と気づいたのはしばらく経ってからのことだった。
自分がかわいいと思ったことはないし、かわいく見られたいと思ったこともない。だけど好きな相手にかわいくないと思われていることは堪えた。だって、「かわいくない」は良い感情ではない。好きな人にマイナスな感情を向けられることは悲しい。よくばりかもしれないけれど、できるなら、なるべく、よく思われたい。
表情を、感情を、かくすこと。相手のしぐさや表情から心情を見抜くこと。どちらも黒子がバスケをやるうえで必要なものだ。だけどそれが、こんなところでマイナスに働くなんて。
胸の中では重たいものがぐるぐると回転してしんどいのに、ガラスに映る自分は泣きそうどころか一片の憂いも帯びていなくて、いつもの無表情のままだ。
ここで泣いたりできたら、すこしは「かわいい」のかもしれない。だけどそれは無理な話だし、だいたい「かわいい」とはどういうことなのかが黒子には今ひとつわからない。自分を消すことにばかり注力してきたから、自分を見せることについては全然くわしくないのだ。どうやったら、火神にかわいいと思ってもらえるのか、なんて見当もつかない。
「あれ、黒子じゃん」
唐突に降ってきた声はあきらかに黒子に向いていた。わずかに驚いて目線を店内に戻すと、よく知った顔がにこりと愛想のいい笑いを浮かべて立っている。
「……高尾君」
偶然ですねということばを発し終える前に、高尾は黒子の向かいに座っていた。無遠慮ともいえるふるまいが不愉快に映らないのが高尾和成という人間のもつ能力というか、魅力だ。観察眼に優れた黒子でさえときどき目をみはる行動をとる。おもしろい人ですね、というのが率直な印象だ。
ハンバーガーとポテト、ジュースの入った紙コップが乗ったトレイをどんとテーブルに置き、カバンをどさりとソファに投げ出し、高尾は「あー腹減った。練習超キツくてさー」とぼやきながら笑ってみせた。
「緑間君はどうしたんですか」
「あー? なんか用があるってさ。体育館の照明交換のせいで居残り練できなくて早く上がれたからな、どうせラッキーアイテム探しじゃね?」
「高尾君はいいんですか」
「なんでオレが。いくら相棒だからっていつもべったりなわけじゃねーよ」
けたけたと笑いながらも高尾はみるみるうちにトレイの上のものを消費していく。火神ほどではないが、けっこうな食べっぷりだ。
「そういう黒子こそ、火神はどうしたんだよ」
「さあ。ボクたちだって、いつも一緒なわけではありません」
「そうか? てっきりケンカでもしたのかと思ったわ」
黒子がほんの少しだけ目を見開いたのがわかったのか、高尾はポテトを口に押し込みながら笑った。明るいオレンジの瞳が楽しそうに輝く。その光の中に油断ならないものが宿っていることを、黒子は知っている。ひとなつっこくお調子者に見える高尾だが、空気を読むことや他人の本心を見抜くことに長けており、朗らかな態度と陽気な口調を利用して物事の流れを掌握するのが得意なのだ。あの気難しい緑間とうまくやっているのも高尾の慧眼のおかげだろう。
もっとも、人の気持ちに敏いぶん、自分の気持ちにはにぶそうだというのが黒子の見立てだったけれど。
「なーんか落ち込んでるカンジだったからさ」
ちがった? と笑う姿に邪気はない。食えない部分は多々あるものの、根本的には気がよくて親切なやつなのだ。そのことばから自分を気づかう温度を確かに感じとって黒子は気持ちをゆるめた。
そうだ、高尾なら。高尾の交友関係についてくわしいわけではないが、彼のコミュニケーション能力が男女問わず発揮されていることは黒子も知っている。敵校の桃井やリコといつのまにか連絡を取るようになっていることがその証拠だ。
交友関係が広く他者の気持ちを察するのが得意な高尾なら、きっと恋愛相談にかかわる機会は多かっただろう。黒子が抱えている悩みに答えを示してくれるかもしれない。よし、と心を決めて黒子は口を開いた。
「……ボクの、クラスの友だちが、悩んでいまして」
「は、友だち?」
「はい。つきあっている人に、かわいくないと言われたことを気にしているようで」
「へぇ、友だちねぇ」
ニヤニヤ笑いは受け流す。鋭い高尾相手にかくしとおせるとは思っていない。けれど、友だちの話だと言っておけば高尾はそれ以上踏み込んでこないだろうという勘のようなものがあった。
「容姿のことではないんです。中身というか……」
「要は、かわいげを出したいってことだろ?」
ハンバーガーの最後のひとくちを頬張りながら、にやりと笑う顔はとても悪そうだ。それでも高尾が話に乗ってきてくれたことに安堵して、黒子はうなずいた。
「そう、そうですね。かわいいと思われるには、どうしたらいいんでしょう?」
「黒子的には、中身がかわいいってどんなん?」
「……ボク的には、ですか? そんなこと、考えたことありませんでした。……高尾くんはどう思いますか?」
「んー、かわいいっていうのは、そーだなぁ。ホントは心配してるくせにそう言えねーで『無様な姿を見てられない』とか言いながら手助けしてる後ろ姿とか、ほしいものが目の前にあるくせに『いらない』って意地はっちゃって、でもあきらめきれずにちらちら見てる横顔とか、うれしいことあっても素直によろこばないでメガネ直すふりしてちっちゃく口元ゆるませてるとことか、かな?」
「……」
思わず高尾を凝視してしまった。やけに微細なそのたとえから連想される人物など、ひとりしかいない。いつも不機嫌そうに眉間にシワを寄せている、195㎝の大男しか。
瞳を細めて軽く微笑んでいる高尾はどう見ても冗談を言っているように見えない。まさか、あれが高尾にとっては「かわいい」の代表例なのだろうか。本当にそうだとしたら、それはもう立派に恋と呼んでいい。
黒子の乏しい表情がめずらしく驚愕に彩られていることに気づいたのか、高尾は視線をそらして頬をかいた。
「……なんてな! つか、なんでかわいくないとか言われたわけ?」
「友だちの恋人が、手をつなぎたそうにしていたから手をつないだら、相手が手をふりほどいて離れてしまったそうなんです。それで、手をつなぎたいんでしょう、つながなくていいんですかと訊いたら……かわいくないと」
「はーん?」
愉快そうに高尾が首を横にかたむける。黒子の説明を咀嚼しているらしい様子にじっと返答を待っていると、ストローをくるくると回しながら高尾が口を開いた。
「先回りされたのが恋人的におもしろくなかったってことなんじゃね? あと、あれだろ。どうせそのあいだずっと無表情だったんだろ? そのオトモダチ」
「……感情は顔に出にくいタイプです」
「でも、そのオトモダチは手をつなぐことに対してなんにも感じてなかったわけじゃねーんだろ?」
「というと」
「ドキドキするとか、緊張するとか、手つなぐのうれしいとか、あったんだろ?」
「……それは、まぁ、そう、なんじゃないでしょうか」
「そういうのが相手に伝われば、ちっとはかわいい感じするんじゃね?」
「そういうものでしょうか」
「そりゃ無表情で何考えてるかわかんねーより、表情があって考えてることがわかるほうがかわいげあんだろ、フツー。まーなんてーの? 素直になれ、ってヤツ?」
何がおかしいのか、うひゃひゃと笑いだす高尾を脇において黒子は考え込む。確かに、火神が無表情に手をつないできたりしたら、嫌かもしれない。
火神は素直というか、ストレートだ。喜怒哀楽ははっきり顔に出るし、へたにウソをついたりもしないし、思ったこともはっきり言う。そういうところが好きだし、一緒にいて楽しい。背が高くてがっしりしていていて、不機嫌なときは近寄りがたい印象さえ与えるくせに、子犬におびえてみせたり、黒子に好きだと言われるだけで真っ赤になるところはかわいいと思う。
――そうか。「かわいい」というのは、そういうことなのか。
「ま、素直なだけがかわいいってわけじゃねーけどなぁ」
「それは、高尾君はそうでしょうね」
「なんだよソレ、どういう……」
抗議しかけた高尾の口が驚いたようにぽかりと開く。真ちゃん、とこぼれたことばに沿ってふりかえると、大きな包みを持った緑間が険しい顔で立っていた。
「どしたの」
「お前こそ、こんなところで何をしている」
「見りゃわかんだろ? 黒子とおしゃべりしてんの」
「黒子?」
怪訝そうな表情をして視線を高尾から移動させ、そこでようやく緑間は黒子の存在に気づいた。絶対に驚いたはずなのに、眉をぴくりとさせるだけに留めたところが緑間らしい。プライドが高いから、うろたえるさまを見せることなど許さないのだ。
「真ちゃんこそ、用事あんじゃなかったの?」
「バカめ、用事などとうに済ませた。帰ろうと思って通りがかったらお前が見えたのだよ」
「えっ何、オレがいたから店入ったの? オレいなくてさみしかった?」
「なっ……そんなことは言っていないのだよ! 調子に乗るな!」
赤い顔では説得力がありません、というセリフは言わずにしまっておく。あいかわらず、仲がいいというかなんというか。自分ルールとこだわりがやたらと多いうえに生真面目で意志が強く、おまけにマイペースで案外世話を焼きたがる性格で――ひとことで言うと面倒くさい緑間を、ここまでからかって楽しんでいる人間なんて、黒子の知るかぎり高尾だけだ。
物好きというか、高尾くんもけっこうな変人ですよね。目の前でくりひろげられる漫才を眺めながらバニラシェイクをすする。大好物のそれはもう残りわずかになっていて、ぬるくなっていた。
「オレはお前に用があっただけなのだよ! ……ほら、受け取れ」
「へ、何コレ」
「明日のさそり座のラッキーアイテムなのだよ。明日のさそり座は10位だからな。きちんと人事を尽くせ」
高尾に押しつけた包みから出てきたのは、大きなぬいぐるみだった。やたらとふわふわもこもこしたカエルがつぶらな瞳で黒子の方向を見ている。にぎやかな店内に、高尾の爆笑が響きわたった。
「ギャハハハ! カエ、カエル……っ! 何これ、めっちゃかわいい……うひ、うひひひっ、ぐふ、うは、ぎゃはは!」
「うるさい」
そうは言いつつも、緑間の顔はさほど険しくない。おや、と黒子はあることに気づく。
「まさか真ちゃん、用ってこれ買いに……?」
「このあたりでふわふわのぬいぐるみが買える店はあまりないのだよ」
答えになっていない答えに、それでも理解したらしく高尾が勢いよく笑いだす。店内で静かにしろ、とたしなめる緑間の表情はやっぱりそれほど怒っているようには見えなくて、それどころか。
(……うれしそうです)
緑間が満足そうなところなど、試合中にシュートを決めたときしか見たことがない。そんな緑間と顔を赤くしながらひいひい笑っている高尾を交互に見比べて、黒子はひとつの結論を出す。さっき、まさか、と思ったけれど、どうやら事実らしい。
ずず、とストローが空気を吸い込む。ちょうどいいきっかけだ。帰ろう。
カバンを持ち、立ち上がってもふたりが黒子の様子に気づく気配はない。しかたがないので声をかける。
「それでは、ボクはこれで」
「うひゃひゃ……え、黒子帰んの?」
「シェイクを飲んでしまいましたので。高尾君、話を聞いてくれてありがとうございました」
「おー、じゃーな。……真ちゃん座ったら? 腹減ってるんじゃね?」
減っていないのだよオレは忙しいのだよと文句を言って乗り気ではないフリをしている緑間と、それを笑い飛ばす高尾の声を聞きながら、店をあとにする。緑間がいるときとそうでないときでは、高尾の笑い方がちがう。隙のない瞳に宿る色がちがう。気づいてみればとてもわかりやすい。
(ボクもまだまだですね)
もっと人間観察の目を養わなければ。特技をさらに究める覚悟を固めて視線をドアに向け、黒子は足を止めた。
「…………火神君」
入口で、火神が所在なさげに立っていた。
すっかり陽が落ちて暗くなった道を、ふたりで歩く。マジバから駅に向かう道のりは都内のくせに街灯が少ない。手をつなぐには絶好のポイントですね。そう思うものの、火神の手をとる勇気はない。また振り払われてかわいくないと言われたらさらに落ち込んでしまいそうだ。
火神はずっと黙りこくったままだ。口元を固く引き結んで、怒ったように前を見ている。
「……どうかしましたか」
「何が」
「火神君、マジバで食事をするつもりだったんでしょう。それなのに、何も頼まずに出てきて」
「別にいい。そんな腹減ってねえし」
嘘だ、ということばを飲みこんで火神を見上げる。火神の食欲がないなんて異常事態というよりない。すごく具合が悪いか――すごく、悩んでいるか。
「……怒っているんですか」
「怒ってねえ」
会話が途切れる。何を言うべきかわからず、火神の真意をはかろうと硬い横顔を眺めるけれどそれだけで答えがわかるはずもない。黒子だって、人の心が読めるわけではないのだ。
「……………さっき」
「はい」
「高尾と、いただろ」
「はい。よくわかりましたね」
「席とろうと思って奥行ったら、高尾がひとりでゲラゲラ喋ってっから、大丈夫かアイツって思って……よく見たらお前がいて」
「はい」
「何話してたかは、よく聞こえなかったけど。かわいい、とかなんとか言ってただろ」
聞かれていた。全身をめぐる熱は、気恥ずかしさのせいだ。それにしても、火神に気づけなかったなんて。一生の不覚だ。
「……お前、かわいい女子が好きなの」
唐突な問いに、いつも無表情な自分の顔がおかしな感じにゆがんだのがわかった。火神はふてくされたような顔で前ばかりをにらみつけている。
「どうしてそうなるんですか」
「……かわいいとか、恋人とか、聞こえたから。そういう話してるんだと思って。……好きな女の子のタイプとか」
「全然ちがいます」
どうやら火神は本当によく話を聞いていなかったらしい。ちぐはぐすぎるひどい推理につい呆れてため息をつくと、火神がムッとしたのがわかった。
「ボクは火神くんとつきあっているのに、どうして好みの女の子の話になるんですか」
「だって……お前最近、なんか元気ねーし。なんか……気になることでもあんのかって思ってたから、ほかに、好きなヤツとかできたのかと思って」
「…………ボクが悩んでることに気づいてたんですか」
「あたりまえだろ。…………一応、つきあって、んだし」
そっぽを向いた火神の耳が赤い。つきあってると言うだけで照れてしまうなんて、どれだけ純情なのだろうか。アメリカにいたくせに。ところかまわずキスしてくる美人がそばにいたくせに。
そういうところが、かわいいと思う。好きだと思う。だからやっぱり、好きでいてもらいたいと願ってしまう。
だから。
「……この前、火神くんにかわいくないと言われました」
「あ? そんなこと言ったか?」
「言いました」
感情を出すのは得意ではない。
かっこ悪いところを見せるのだって、本当は嫌だ。
だけど、表情があって考えていることが伝わってくるほうが「かわいい」なら。そのためなら。
「かわいくない、というのはあまり良い意味ではないと、思いました。火神君にあまり好かれていないのではないかと、不安になって、それで、高尾君にかわいく見られるにはどうしたらいいのか相談していました」
返答がない。
いよいよ本格的に呆れられてしまったのかという不安がぐるぐるとめぐりだす。そもそも、火神が作為的な「かわいい」を好きになるはずがない。黒子がむりやりかわいい態度をとっても意味なんてなかったのかも。
発言を取り消したい。だけどそんなことはできない。せめてうまく言いつくろって、できれば忘れてもらいたい。全身を占める不安のせいでうまくはたらかない頭で対処策を懸命に考えていると、頭上から大きなため息が降ってきた。
「んだよ、それ。バカじゃねえの」
「……バカげているとは思いますが、だけど」
「かわいいお前なんて気持ちわりーっつーの」
やっぱり。肩を落とす黒子に追い打ちのように火神のことばが続く。
「黒子は、かわいくねえところが、かわいいんだ」
え。
思いがけないセリフについ足が止まる。火神を見つめる目がよほど驚いていたのか、火神はみるみるうちに顔を真っ赤にした。怒ったような表情のまま、立ち止まった黒子のところまでずんずんとやってきて、乱暴に黒子の手をつかんだ。
「つまんねえこと考えてんじゃねーよ」
黒子より大きい手のひらが、黒子の指をぎゅうぎゅうと包み込んでいる。痛いです、と文句を言いかけてあわてて口を閉じた。ものすごい力が入っているからすぐにはわからなかったが、どうやら火神としては手をつないでいるつもりらしい。
「だいたい、男にかわいいとか求めないだろフツー。お前オレのことかわいいとか思わねえだろ?」
思ってます。心の中でつぶやいて、黒子はなんとか指を曲げて火神の手を握りかえす形をとった。黒子の手を握りしめて早足で歩く火神の耳はさっきよりもさらに赤い。
高尾君、ボク的に「かわいい」は火神くんそのものだと思います。まだマジバにいるであろう高尾に今度教えてやろうと思いながら、黒子は駆け足で火神の隣に並んだ。
2016.1.15