※ドラクエパロです。ドラクエ知らないと意味わからないかも…
「勇者の高尾でっす! 仲間の登録をお願いしにきましたー!」
酒場のカウンターで元気よく声をはりあげたのは、高尾という少年だった。彼は十五になったら勇者として旅立つことが定められており、今日がその日なのだった。
「はいはい、どんなお仲間をご希望?」
すぐに妖艶な女性が名簿を持ってやってくる。酒場は酒や食べ物を提供するだけでなく、冒険者の仲介も行っているのだ。
「んーとね、とりあえず僧侶! 金なくってさ、何人も雇えなくて。オレ、剣は使えるけど魔法はダメだから、やっぱまずは回復役かなって」
「堅実ねえ」
「うひひ、そー簡単に死ぬわけにはいかねーからな」
無邪気に笑う高尾に、女性は目を細めて一枚の書類を取り出した。
「ついてるわね。今ちょうど、すっごく経験豊富な僧侶がひとり空いてるわよ」
「マジ!? やった!」
「すぐに紹介するわね。緑間さん、緑間さーん、高尾さんがお呼びよ〜」
「……よろしく頼む」
現れたのは、ものすごく長身で愛想のない、緑の髪の僧侶だった。
なんか変なやつ仲間にしちゃった。まあ、強いっていうからいいか。ちらりと見上げた緑間は、無表情で何を考えているのかわからない。くまのぬいぐるみを持っているのはラッキーアイテムという物らしいが、それもよくわからない。幸運のパラメータがアップするマジックアイテムとはまた違うのだよと長々とした説明を聞かされても、やっぱり高尾には理解ができなかった。
ま、旅してるうちに仲良くなれんだろ。持ち前のポジティブさで問題を切り捨て、高尾は町の周辺をぐるぐる歩く。まずは周辺にいる弱い魔物を倒して経験値を稼ぎ、レベルをあげること。基本中の基本を実践するつもりだ。すでにレベルが五十を超えるという緑間には申し訳ないけれど、高尾はまだレベル1、ひよっこ中のひよっこなのだ。
「おい、何をぐるぐる歩いているのだよ」
「え、いや、レベル上げしようと思って……あ! スライム!」
草むらから水色のぷるぷるした魔物が三匹ほど飛び出してきた。初めての戦闘に高鳴る鼓動を押さえつけながら剣を抜く。大丈夫、訓練はたくさんしてきた。訓練通りにすればきっと大丈夫だ。
「真ちゃん援護をたの……」
「メラゾーマ!」
轟音と共に太い火柱が上がる。目を丸くする高尾の前で、緑間は最大級の威力を誇る炎の魔法を連発する。メラゾーマ、メラゾーマ。あわれスライムはひとたまりもなく炎の向こうに消えていった。パパパパーパッパー、高尾のレベルアップを告げるファンファーレがむなしく草原に響く。
「ふん、口ほどにもないのだよ」
「え、あ、その」
「どうした、行くぞ高尾。そうだ、今のでMPを消費したのだよ。魔法の聖水をよこせ」
「え、あ、持ってない、です」
「なんだと。ならば宿屋に行くぞ。オレは何事にも人事を尽くす。HPとMPが満タンでないと戦わんからよく覚えておけ」
行くぞ。すたすたと町へ戻っていく僧侶の後ろ姿に空いた口が塞がらない。僧侶がなんでメラゾーマ使えんだよとか、レベル1の勇者に魔法の聖水要求すんなよとか、ツッコミたいことは山ほどあったが、今、高尾の胸を埋める感情はただひとつ。今後への不安だ。
「オレ……とんでもねえの、仲間にしちまったかも……」
魔王を倒す。その使命よりも、あの僧侶を御することのほうが難題に思われるのだった。
2020.9.23